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第38話 エオリアン・ハープ

Penulis: 五慈あおい
last update Tanggal publikasi: 2026-06-11 06:34:20

「一番、人に見られたくない一枚だったんですけど……けじめのつもりで載せたんです。星を撮り始める前の、ただ途方に暮れていた頃の自分が撮った海岸の写真です」

そう言って、彼は俺の頬に伝う涙を、大きな親指でそっと拭った。

その指先が熱くて、俺はまた視界を滲ませる。

浅野さんの声は、波音のように穏やかに俺の心に染み渡る。彼の過去に何があったのかは聞けない。けれど、その痛みのようなものに寄り添いたいと思った。

「……俺も、この海を見てみたいな」

「えっ?」

「浅野さんが今まで見てきたものと同じものを、共有してみたいなって思いました」

俺が真っ直ぐにそう伝えると、浅野さんは目元を拭っていた指を止め、呆気に取られたように瞬きを繰り返した。

まさかそんな言葉を返されるとは思っていなかったのか、彼は少しだけ唇を尖らせ、困ったように、けれど今日一番の柔らかな熱を帯びた瞳で俺を見つめた。

「……珠依さん、本当に……」

そう言って、彼は照れくさそうに前髪をかき上げた。

「この海、ここからだと車で二時間くらいかかるんですけど……。霞くんも連れて、行きますか? ちょうど今の季節、夕暮れ時な
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  • 元彼に「赤ちゃんが欲しい」と言われて、タオルをお腹に詰めてたら振られましたが、有名フォトグラファーの彼に愛されています♡   【番外編⑤】透利さんの実家で

    あの後、俺は周囲の喧騒を避けるように、透利さんの実家へと身を寄せることになった。 これからの一週間、慣れない環境に身を置くことへの緊張で、自然と顔が強張ってしまう。「珠依くん、お待たせ。さぁさぁ、早く乗って」 ちょうど長期休暇中だった透花さんが迎えに現れたのは、真っ赤な外車のオープンカーだった。 初夏の風を切るエンジン音が、閑静な住宅街でひときわ異彩を放っている。パパラッチの影に怯え、じめじめと湿っぽく沈んでいた俺の気分を吹き飛ばすように、透花さんは「アタシは何を書かれたって平気よ」と快活に笑い、アクセルを軽く煽った。「うわっ、透花さん、スピード!」 「大丈夫大丈夫、法定速度はちゃんと守ってるから! あっ、でもシートベルトはしっかり締めておいてね? あたし、トロトロ走る車はガンガン追い越していくタイプだから」 「う、あ、はいっ……宜しくお願いします」 俺が命を預ける思いでいつもより数段強くシートベルトを締め直すと、透花さんはサングラスの奥でいたずらっぽく目を細める。蛇行するように細い道を抜け、パパラッチの追跡を撒くように何度も鋭いハンドル操作を繰り返してから、高速道路の流入路へと一気に躍り出た。***「珠依くん、久しぶり。長距離移動でお疲れでしょう? さあ、ゆっくりしてね」 目的地に到着すると、玄関先にはお義母さんとお義父さんが温かな笑顔で待っていた。 久方ぶりの再会に、強張っていた胸の奥がふわりと緩む。車を降りて改めて見上げた透利さんの実家は、俺の想像を遥かに超えた邸宅だった。(……これ、本当に家、なのか……?) 重厚な門構えからして、俺の知る「一般家庭」の定義とは一線を画している。 整備された庭園の奥には、周囲の景観を圧倒するような、広大な平屋の屋根が横たわっていた。 ぽかんと開いてしまいそうな口を必死に閉じ、圧倒されるような思いでその佇まいを見つめ続けた。「こっちが透利の部屋よ。帰省のたびに片付けはしていたみたいだから、珠依くんの個室として使ってね。記者会見が終わったら、透利もこちらに戻ってくる予定だし……アイツが来る前に、こっそり卒業アルバムでもチェックしておいたら?」 透花さんにそう茶化されると、俺は「そんな!」と慌てて手を振って否定する。 けれど、内側では好奇心が疼いていた。学生時代の透利さん。知らない頃の彼を、

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    その一件のあと、早霧は必要最低限の荷物だけをボストンバッグに詰め込み、黙って家を出ていった。 パタン、と閉まった玄関のドアの音は、七年の終止符にしてはあまりに軽かった。 まるでコンビニにタバコでも買いに行くような、日常の延長線上の音。 その数時間後、静まり返った部屋で受信したメッセージは、わずか三行だった。 『友達に告られてから 半年以上二股してた』 『この前の旅行で 相手の子、妊娠させちゃって』 『やっぱ自分の子どもが欲しいから 籍入れる』 絵文字も、句読点もない。 謝罪なのか、単なる事務報告なのかも判別できない、平坦で無感情な文字列。 スマホを持つ手が震え

  • 元彼に「赤ちゃんが欲しい」と言われて、タオルをお腹に詰めてたら振られましたが、有名フォトグラファーの彼に愛されています♡   第1話 崩れ去った幸せ

    「珠依、お前マジで何考えてんの? ガチでキモいんだけど」 それは、まるで目を背けたくなるほどの汚れを見つけた時ような、嫌悪感を丸出しにした言葉だった。 ◇ 高校のクラスメイトだった、早霧に告白された日から始まった交際は、思い返せば奇跡の連続だった。 人目を盗んで繋いだ指先の熱。 放課後の静まり返った教室で、心臓の音を競い合うように重ねたキス。 『珠依、マジで可愛い。好き。俺だけ見てて』 大学合格を機に始まった二人暮らしは、狭いワンルームに並んだ二本の歯ブラシだけで、ふたりの世界が完成したような。とにかく幸せな充足感があった。 『お前の飯最高だ

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